株式会社レック研究所

リハ職に「住まい」の知識を
安楽玲子

初出:環境新聞社「シルバー新報」2011年10月21日号
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厚生労働省の管轄となる「介護保険」には、在宅での生活改善メニューとして、「福祉用具レンタル」「福祉用具購入」「住宅改修」がある。これに加え「住宅改修」について、多数の自治体で独自の制度が設けられている。一方、国土交通省ではバリアフリー住宅の普及に向け、リフォームの充実を図るべく、種々施策が実施されている。こうした制度を適切に利用することで、在宅が容易になったり、介護者の負担が軽減される。当事者のADLの改善にもつながる。
しかし、介護の現場では、制度が適切に利用されているとは言えない状況が続いている。住宅改修事業者のスキルの問題もあるが、今回は、理学療法士、作業療法士(以降医療専門者と称す)の関与したケースにおける問題を取り上げる。

これまで幾度となく、病院等に所属する医療専門職の方々と、退院を前に生活の現場で「生活改善」の方法について、当事者、家族、担当ケアマネジャーを含め検討を行った。その多くは、会合の前に、医療専門職による改善プランがあった。残念ながら、そのプランを元に検討が進むことは、1、2の例外を除きなかった。
極端な例では、双方の会話が成立せず、立会いのケアマネジャーや事業者も困惑し、仕方なく両者で全く異なる案を提案することになったケースもあった。結果として、家族や当事者の希望を入れた当方の案となり、工事完了後の生活には、皆大きな満足を得られていた。  医療専門職との断絶は、彼らの「高齢者の生活環境を変えない範囲での改善が何より望ましい」とする認識が根底にあったことが原因だ。
しかし、当事者や家族のなかには、「生活環境を変えても、暮らしやすくしたい」「ある程度の費用は負担しても、心身状況にあった、より暮らしやすいものとしたい」「親のためにできることは何でもしたい」とされるケースもある。
従って、改善プランは最初から限定して考えるのではなく、いくつかの選択肢のなかから、当事者及び家族の希望に沿うかたちで、まとめることが望ましいことは言うまでもない。

医療専門職の指導のもと「生活改善」を行うケースでも、建築の基礎知識があれば、彼らで対処可能なケースだけでなく、複数の提案も可能となる。こうした職種の人たちに是非とも建築の基礎知識を持ち、他業種との連携を深めて欲しいと願う。参考に、改善プランの問題として、主に建築基礎知識の不足による2点をしめす。

1.簡易な改善プランの限界
脳梗塞などによる片麻痺が残り、将来を含め車椅子の利用などが想定されるケース。居住部分のバリアフリー化など比較的規模の大きな改善が好ましい事案。
医療専門職の改善プランは、介護保険を利用した簡易なものであったが、当事者や家族の意思を確認したところ、必要な工事は全て実施したいとして、利用しやすい位置へのトイレの移設、床暖房を含め生活部分を限定し、車椅子利用の生活が可能となる比較的規模の大きな工事の実施となった。

2.小規模な改善でも対応可能なケース
トイレを少し移動したり、間仕切りの壁の一部撤去するなど、小額な工事で対応できるケースも少なくない。こうした提案にも、建築の基礎知識が必須である。
写真(省略)の事例では、もともとの医療関係者による改善プランは、「便器と開口部の途中に椅子を置き、一端車椅子から手すりを利用し、椅子に移乗する。そこから別の手すりを利用し、便器に移乗」というものだった。このケースでは、福祉専門職と協力して便器を少し移設するプランを再作成。結果として、開口部からの距離を短縮。新たに設けた手すりを利用し車椅子から直接便器に移乗。高齢者の身体にかかる負担も大きく軽減された。

おわりに
要介護者などの在宅での生活改善を図る、専門職の増加は社会的に期待されている。
福祉の専門知識を持つ建築職の増加と同じく、生活改善の現場に関わる医療専門職の、建築の基礎的知識の取得は必須と言える。単に、両者が共同で事にあたるだけでは問題は解決しない。各所で行われている医療系・福祉専門職等に向けた「住宅改修」に関する研修には建築の基礎知識のない人が散見される。まずはこうした講習の講師は建築の基本知識を備え、その上で医療系・福祉専門職等に幅広く知識が普及するよう願ってやまない。

 



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